ヴェニスに死す

どーもBJRYOです





今回紹介するのはこちら、

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トーマス・マン著 実吉捷郎訳
『ヴェニスに死す』です。



今回何故BJがこの『ヴェニスに死す』を読もうと思ったのか。


みなさんは以前紹介した『マチネの終わりに』という本を覚えていますか?
平野啓一郎さんの作品としておすすめした本です。

実はその物語の中に、”「ヴェニスに死す症候群」”という言葉が登場するんです。
調べたところ恐らく作者の平野啓一郎さんの造った造語だと思いますが、
とても印象的な言葉として記憶に残り、その名前のインパクトもさることながら、
内容が面白いので紹介します。


「ヴェニスに死す症候群」とは、


とても名誉のある地位や実績を持った人が
ある日突然、その現状への不安を募らせ
自ら破滅的な行動をとってしまう症状



として作中で紹介されます。

「マチネの終わりに」の中で、敏腕ジャーナリストとして確固たる地位を築き、婚約も決まり、まさに順風満帆な人生を送っていた女性がこの「ヴェニスに死す症候群」という言葉を発するんです。



では、この「ヴェニスに死す症候群」の元となった『ヴェニスに死す』とは一体どんな作品なのか?
知っているのと知らないのとでは受ける印象も、説明する際の説得力も雲泥の差だと思ったので、
読むに至ったとそういうことです。



ということでまずはこの『ヴェニスに死す』の著者トーマス・マンという人物を紹介します。


本名パウル・トーマス・マンは現在世界遺産にも登録されている、ドイツリューベック出身の小説家です。
ある一族の繁栄と衰退までを描いた長編小説「ブッデンブローク家の人々」という作品で、
ノーベル文学賞を受賞しています。

「老人と海」の著者アーネスト・ヘミングウェイの紹介の時に説明しましたが、
現代で言うならばミュージシャン”ボブ・ディラン”さんも2016年に受賞して話題になりました
ノーベル文学賞にこのトーマス・マンさんも選ばれていたんですね。


そして知っておいて欲しいことは、このトーマス・マンという方の作品は”写実主義”
と呼ばれる分野に属するということです。
リアリズムと言う言い方の方が分かりやすいかもしれませんが、
現実をありのままに作品に投影する表現方法のことです。
以前ヒョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキーというロシアの小説家を紹介しましたが、
あの人も写実主義の人です。



さてそれではこの『ヴェニスに死す』の内容に入っていきましょう。

まずはあらすじをさくっと紹介します。


グスターフ・アッシェンバッハという初老の小説家がいました。
彼はその道で、富や名声などあらゆるものを欲しいままにしている天才でした。
そんな彼がとある理由からイタリアはヴェネツィア(ヴェニス/ベニス/ベネチア)に旅行に行きます。
そして、滞在中の同じホテルに泊まっているポーランド人のタッジオという美少年に魅せられ、
恋をしてしまいます。

この恋の行方やいかにっ!!



という物語です(笑)


どうです?
衝撃的でしょう?
そうなんです、この物語はとある初老の小説家の”恋物語”なんです。
しかししっかりとした内容のあるものなので詳しく解説していきましょう。


まずこの『ヴェニスに死す』という物語で語られている大きなテーマは、
欲望の追求と破滅です。

この時点で「ヴェニスに死す症候群」の元になることがわかりますね。


主人公アッシェンバッハは、[富・名声・力]かつてこの世のすべてを手に入れた男。
漫画「ワンピース」でいうゴールド・ロジャーのような人物なんです。

先祖代々お国に仕える家柄の子息として生まれたアッシェンバッハは、50歳の誕生日を迎えるまで
規律を守り・法を遵守し・真面目にしっかりくっきりとした日々を送っていました。
そして、小説家やコラムニストとして大成しまさに順風満帆な人生を謳歌していたのです。

しかしそれほどの人物ならば避けて通れない現実を生きていました。
常にくる仕事の依頼、執筆活動、ファンレターや郵便物への目通しなどなど、
自分の時間というものが皆無な忙殺した日々が続いていたのです。
さらに周囲からの期待や羨望の眼差しを嫌でも感じてしまうということで、
精神的にも休まることができませんでした。


そんな彼がとある場所で偶然見た、異国情緒満載な人物をきっかけに旅行を決意し水の都ヴェニスへと旅立ちました。
そして滞在場所のホテルで、まだ10代前半の美少年タッジオと出会うんです。


老人はこのタッジオという美少年を”美を超えた究極の美”とまで感じ、
完全にタッジオの虜になり魅入ってしまいます。


そしてここからはもうその想いが徐々にエスカレートしていき、止められなくなったアッシェンバッハは、
その①タッジオをガン見
その②タッジオを待ち伏せ
その③タッジオを尾行(ストーカー)
その④タッジオ一家の泊まっている部屋を扉の前に立ちガン見
その⑤お化粧をしてタッジオに会おうとする

といった行動を起こしてしまいます。


これだけを読むと、ただの変態やないかい!!(笑)
となってしまいますが、老人の気持ちを考えると人ごとではないような気もします。


老人は50年もの間自分のためではなく、人の求めるものを満たす人生を歩んでいたんだと思います。
もちろん生きていく生活していくということを考えると、決してそれだけではないと思いますが、
自分の欲を知らず知らずのうちに押し殺し、潰して、それが普通だと思い込んでたんでしょう。


これは決してフィクションの話ではなくて、現実にもありえることではありませんか?
富や名声を欲しいままにしてきた様々なジャンルのスーパースター達がいますが、
彼らもまたアッシェンバッハと同じ境遇を生きているんだと思います。


初めは自分の望んだ生きる道だとしても、
規模が大きくなるとどうしても周囲のあらゆるものが絡み、
自分だけのものではなくなっていきます。
単純にするだけで楽しかったものも、周りの目や期待に応えなければいけないと義務になっていくようなそんな感じだと思います。
そして周りの期待に応える日々を送ってしまう。


だからこそある時こう思ってしまうんじゃないですか?


おれは/私は本当にこのままでいいのか?
人の欲を満たすだけでいいのか?



と。


そして彼らはその反動から、時に犯罪に手を染め、薬に手を出し、自ら破滅へと向かって行く。
そんな現象は現代でもよく見ますよね?


それがこの老人はたまたま”同性愛”だったという話なんです。
今まで押し殺していた欲が爆発すれば、そりゃおネエにもなりますよ(笑)


しかし破滅はおネエだけでは止まりませんでした。
ヴェニスにはコレラという感染症が蔓延しようとしていたのです。
しかもアッシェンバッハはそれに気づくんです。


ヴェニスから離れなければ自らの命に関わる感染症にかかってしまう。
しかしタッジオへの想いを捨てられない。
老人は果たしてどういう選択をするのか・・・




というのが『ヴェニスに死す』という作品の概要です。
「老人と海」といいノーベル文学賞を受賞する作品や作家さんは、やはり人間の根源的な感情や行動を
文字に言葉にすることができる信じられないような方々なんだなと思いました。





ということでいかがでしたでしょうか?
トーマス・マンさんの『ヴェニスに死す』でした。

この本は読んで何かを得るといったことよりも、上記のような人の脆さや核心を覗くといった
理解を深めるという目的にあった本だと思います。

誰もその人の持つ本当の悩みや想いを知ることはできない。
それゆえの孤独を誰もが持っているということが分かれば、
もっと人に優しく、思いやりの気持ちを持って接することができるのかなと感じました。


だからと言って、犯罪や人に迷惑をかけることを容認しろとは思わない。
しかしそういった事を起こしてしまう人のひとつの理解ができてしまった。
まだまだ色々語り合うことのできる内容ですね(笑)


そんな希望半分憂い半分な気持ちになりつつも
ここまで読んでくださって本当にありがとうございました。
この本があなたの人生を変える一冊になりますように。


以上BJRYOでした





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